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ベテラン選手と文化の継承

長崎ヴェルカは昨日、延長戦を制して勝利を飾りました。エースを欠く中でチームを引っ張った42歳の大ベテランは、年齢を疑う大車輪の活躍で文句なしのゲームMVPを受賞しましたが、もう一人の39歳の日本人ベテランもまた20分を超える時間コートに立ち、チームを支えました。ここ数日「ベテラン選手」について考える機会が重なったので記事にします。

Damian Lillard

僕が好んで聞いている、元NBA選手JJ Redickのポッドキャスト「The Old Man and the Three」、先日のゲストはリーグを代表するPGのDamian Lillardでした。先日の僕のポッドキャストで話をした2012‐13シーズンが彼のルーキーシーズンで、1巡目6位で指名された期待に応え、11シーズン目の現在もチームの中心選手として活躍をしています。先月の71得点のハイパフォーマンスが記憶に新しい人も多いと思います。

Podcast #2:スタート地点≠10年後(7:17) ポッドキャスト「”Hatch” with TMG athletics」 https://podcasters.spotify....

さまざまなトピックでエピソードが進む中、現在のNBA文化への疑問も呈されました。上記の通り、彼は全体6位という高順位で球団の将来を担う事を期待されて入団していますが、チーム内で自分の立場を確立する事からキャリアが始まり、その過程でプレー面だけでなく、リーグでの在り方などをベテラン選手達から学んだと語っています。現在のNBAは、ベテランの重要性が軽視され、高い順位でドラフトされた若い選手に、無条件で球団の「鍵」を渡してしまっており、文化の継承が出来ていない事を憂いています。バスケットボールを愛しているのか、バスケットボールがもたらすものを愛しているのか、そんな方向にも話は進みました。

Udonis Haslem

昨日、今シーズンでの引退を表明しているUdonis Haslemがキャリア最後となるレギュラーシーズン最後の試合をプレーしました。マイアミヒート一筋20年の同選手は、キャリアの晩年、2018年から昨日までの5シーズンにかけて、出場試合は合計35試合に留まり、平均出場時間も10分を下回ります。貴重なロスター枠+高額な年俸を、出場しない事の方が多いベテラン選手に使う理由は何でしょうか?実力主義のNBAにおいてプレータイムが無くても、発言に重みがあり、口を開けば誰もがが耳を傾けるベテランの存在がチームを支えることを、マネジメントは知っているのでしょう。僕が5年間在籍したCleveland Cavaliersでも、毎シーズン、その役割を果たすベテランがチームにいました。中でも印象に残っているのは、優勝メンバーの1人であるJames Jonesです。

James Jones

”Champ”の愛称を持つ彼は、当時キャリア12年目のベテラン選手でした。プレー時間は多くありませんでしたがロッカールームでの存在感や発言がチームにもたらす影響は彼にしか成せないものがあり、LeBron Jamesが絶対の信頼を置いていることも伝わってきました。チームが優勝を狙うに相応しくない試合をして敗戦を喫した後のロッカールームでの出来事を今でも鮮明に覚えています。いつも冷静な彼が「俺のプレー時間は限られているが、ガベージタイム(試合の勝敗が既にが決まった最後の数分)だってプライドを持って全力でプレーする。メインで出ているお前たちが今日みたいなプレーをして、俺を軽じるな!」と怒鳴りつけました。主語こそ一人称でしたが、彼が自分のエゴのために怒っているのではない事は誰もが分かり、そのインパクトは絶大でした。

プレータイムが無い・短い≠プレーする準備をしない

出場機会に関係なくプロアスリートとしての準備を怠らない姿勢が、James Jonesの言葉に重みを加えていました。身体のメンテナンスだけでなく、自主的にハードなコンディショニングメニューにも取り組み、いつ名前が呼ばれても自分のベストでプレーする準備をしていました。前述のUdonis Haslemは、昨日のキャリア最後のレギュラーシーズンの試合で24得点を記録しました。これは2009年に記録した自己最多の28得点に次ぐ数字です。彼が高いプロ意識を持っていることは人伝いで聞いていましたが、昨日のパフォーマンスはそれを裏付けるものでしょう。状況に関係なく準備を続け、機会があった時には高いパフォーマンスを披露する。このような姿は、選手であり続けなければ伝えられないものであり、それが他の選手からの尊敬に繋がり、プレー面以外での伝えるべきものもまた、伝わっていくのだと思います。

最後に

冒頭の日本人ベテラン選手は、今季よりも出場時間が限られた昨季から一貫して、上記のNBA選手と同じ姿勢をチームに見せ続けてくれています。練習・試合前の準備、トレーニング、トレーニング後の器具の片付け、振る舞いの一つ一つ、全てが若い選手の見本になるものです。僕が長崎に来る前に関わらせていただいた滋賀レイクス(当時レイクスターズ)にも、同じような存在感を持つベテラン選手がいました。変革期を乗り越えて今なおコートに立ち続けるベテランたちのエッセンスが継承されていくことが、日本のバスケ文化を固めていくのだと思います。然るべきベテラン選手が持つ、スタッツシートには載らない価値がリーグ・チームに理解・評価され、温故知新でリーグが、日本バスケが発展していく事を願っています。